医師の働き方改革で「経験値」は本当に減るのか——呼吸器内科専攻医として現場で感じたこと
「働き方改革で当直が減ったぶん、若い先生の経験が足りなくなるのでは?」
「昔は寝る間も惜しんで働いた。その分、成長も早かった」
「でも、長時間労働で体調を崩した先生もいる」
医師の働き方改革について話していると、こんな意見を耳にすることがあります。
2024年4月から、医師にも時間外・休日労働の上限規制が適用されました。長時間労働が「医師だから仕方ない」とされてきた医療現場が、制度として大きく変わった節目です。
一方で、現場の医師からすると、どうしても気になるのが「働く時間が減ったら、その分だけ経験値も減るのでは?」という問題です。
私自身、働き方改革の過渡期に研修医・専攻医の時期を過ごし、当直も数多く経験してきました。まだまだ未熟者ではありますが、今振り返ってみると「あの頃の経験が今の自分を作っている」と感じる部分は確かにあります。
では、その経験は「長時間労働だったからこそ得られたもの」だったのでしょうか。
今回は、医師の働き方改革と「経験値」の関係について、制度の基本を確認しながら、医学教育に関する研究結果と、私自身が内科医として現場で感じていることを交えて考えてみたいと思います。
なお、この記事には筆者個人の経験・意見も含まれます。すべての診療科、病院、研修プログラムに当てはまるものではありません。また、「経験値」を一つの数字で評価することはできません。この記事では、あくまで「若手医師が臨床能力を身につけるために、労働時間の短縮がどのような影響を与え得るのか」という視点から考えます。
目次
- 医師の働き方改革とは——まず制度を整理する
- 「経験値が減る」は本当か
- 内科当直はなぜ「経験の宝庫」だったのか
- 時間を減らすと研修の質は落ちるのか——海外の研究から
- 「慣れ」と「成長」は別物だった
- 働き方改革で失うもの・得るもの
- 経験値不足をどう補うか
- 若手医師へ、そして自分自身へ
- よくある疑問Q&A
- まとめ
医師の働き方改革とは——まず制度を整理する
まず、ここは少しややこしいので整理しておきましょう。
医師については、一般の労働者に対する時間外労働の上限規制の適用が5年間猶予されていましたが、2024年4月1日から時間外・休日労働の上限規制が適用されています。
現在の制度では、診療に従事する勤務医について、基本となるのがA水準です。
A水準:原則として年間960時間まで
A水準では、時間外・休日労働の上限は原則として年間960時間です。
ここで注意したいのは、「一般企業と同じ上限」と単純に考えてはいけないことです。一般の労働者に適用される時間外労働の一般則とは異なり、医師には医療提供体制の特殊性を考慮した特別な枠組みが設けられています。
B水準・連携B水準:地域医療を支えるための特例
地域医療を維持するため、長時間労働を避けることが難しい医療機関・医師については、一定の要件を満たして都道府県の指定を受けた場合、B水準や連携B水準が適用されます。
これらでは年間の時間外・休日労働の上限が1860時間となります。
ただし、これは「1860時間働いてよい」という推奨値ではありません。あくまで法令上の上限であり、必要最小限にとどめることが前提です。連携B水準では、派遣先を含めた働き方にも特別なルールがあります。
C-1水準・C-2水準:研修・技能向上のための特例
そして、今回の「経験値」という話に特に関係するのがC水準です。
C-1水準は、臨床研修医や専攻医が、研修のために集中的に診療経験を積む必要があり、一定の要件を満たす場合に適用されます。
C-2水準は、専攻医を修了した医師が、高度な技能を身につけるために集中的な研修を行う場合が対象です。いずれも年間の時間外・休日労働の上限は1860時間です。
ただし、ここは非常に重要です。
「研修医・専攻医だから全員が1860時間まで働ける」という制度ではありません。
研修プログラムにおいて年間960時間以内で研修が可能であれば、原則としてA水準が適用されます。C-1水準は、あくまで研修上やむを得ず長時間労働が必要となる場合の特例です。
「28時間勤務」「9時間インターバル」も全員同じではない
もう一つ、医師の働き方改革を語るときに混同されやすいのが、連続勤務時間制限と勤務間インターバルです。
B・連携B・C水準では、追加的健康確保措置として、勤務間インターバルや連続勤務時間制限が原則として義務になります。一方、A水準ではこれらは原則として努力義務です。
また、勤務形態や宿日直許可の有無などによって、具体的な休息確保の仕組みも異なります。単純に「全医師が28時間勤務まで」「全医師が必ず9時間休む」と理解するのは正確ではありません。
つまり、医師の働き方改革は「医師全員の労働時間を一律に960時間以内にする」という制度ではありません。
基本はA水準。そして、地域医療や研修など一定の事情がある場合には、指定を受けた上でB・C水準という特例が存在する。
まずはここを押さえておくと、制度全体がかなり分かりやすくなります。

「経験値が減る」は本当か
では、本題です。
私の答えは、
「減る種類の経験は、確実にある。ただし、それだけで臨床能力が低下するとまでは言えない」
です。少し分解して考えてみます。
「量の経験」は確実に変わる
これは非常にシンプルです。当直回数が減れば、夜間に診療する患者数も減ります。
例えば、月に4回当直していた医師が月2回になれば、単純計算では夜間診療の機会は半分になります。
特に内科では、夜間・休日にしか経験しにくい状況があります。
- 突然の呼吸困難
- 胸痛や意識障害
- 発熱とショック
- 急激な血圧低下
- 夜間に発見された低酸素血症
- 「この患者さんは入院させるべきか?」という判断
こうした患者さんを実際に診る機会が減れば、当然ながら症例経験の絶対数は減ります。
これは「昔の医師は根性があった」「今の若手は努力不足」といった精神論ではなく、単純な経験機会の問題です。
でも、「労働時間=経験値」ではない
一方で、ここからが重要です。
「働いた時間が長いほど、必ず臨床能力が高くなる」とは限りません。
例えば、30時間連続勤務をした医師と、十分に睡眠をとった医師が同じ患者さんを診たとします。前者のほうが「医療現場にいた時間」は長い。
しかし、疲労や睡眠不足が強い状態では、注意力・認知機能・気分などに悪影響が生じる可能性があります。医師の疲労・睡眠不足についてのシステマティックレビューでも、医師の健康やパフォーマンスへの悪影響が示唆されています。
つまり、「その時間、病院にいた」ことと、「その時間、効率よく学習できた」ことは、同じではありません。
ここは「経験値」を考える上で非常に大切だと思います。

内科当直はなぜ「経験の宝庫」だったのか
それでも私は、研修医・専攻医時代の当直が自分の臨床能力を作る上で非常に重要だったと感じています。
夜中に救急外来から電話がかかってくる。「呼吸苦の患者さんが来ています」
病棟からは、「血圧が下がっています」「酸素化が悪くなっています」と連絡が来る。
日中なら、すぐ隣に上級医がいるかもしれません。しかし、夜間はそうはいかない。
もちろん必要なら上級医に相談しますが、まずは自分が患者さんのところへ行き、情報を集め、重症度を判断し、次に何をするかを考える必要があります。
この「まず自分が動かなければならない」という状況は、若手医師にとって非常に大きな学習機会だったと思います。怖かったですし、緊張もしました。
でも、何度も経験するうちに、「この呼吸困難は危ない」「この患者さんは今すぐ画像を撮るべきだ」「この血圧低下は単なる脱水ではないかもしれない」といった、診療の初動が少しずつ速くなっていきました。
これは確かに「経験値」だったと思います。
ただし、重要なのは「長時間労働」そのものではない
ここで、少し視点を変えてみます。私が当直で成長できた理由は、本当に「長時間働いたから」だったのでしょうか。
今振り返ると、むしろ重要だったのは、
- 自分で患者さんを評価する
- 重症度を判断する
- 鑑別診断を考える
- 必要な検査を選ぶ
- 治療を開始する
- 上級医に相談する
- 翌日になって結果を振り返る
という一連の思考プロセスを繰り返したことだったのではないかと思います。
つまり、重要なのは「長時間働くこと」ではなく、適切なレベルの責任を持って診療し、フィードバックを受けることだったのではないでしょうか。
もしそうであれば、働く時間が減ったとしても、教育の設計を工夫することで、経験の質を維持・向上させる余地があります。

時間を減らすと研修の質は落ちるのか——海外の研究から
この問題は日本だけのものではありません。
欧州では、EU労働時間指令(Directive 2003/88/EC)によって、原則として平均週48時間以内という労働時間規制が設けられています。同指令は1993年・2000年の指令を統合したもので、医師の研修への適用は段階的に進められてきました。
そのため海外では、「若手医師の勤務時間を短縮すると、研修や患者診療にどのような影響があるのか」という研究が長年行われてきました。
結論は「単純ではない」
2011年にBMJに掲載されたシステマティックレビュー(Moonesinghe SR, et al.)では、1990~2010年の研究72件を検討しています。
その結果、米国で週80時間を超える勤務から短縮した場合、患者安全への明らかな悪影響は認められず、卒後研修への影響も限定的でした。
一方、欧州で週56時間、48時間未満まで短縮した場合については、研究結果が相反しており、質の高い研究が不足しているため、明確な結論は出せないとされています。
つまり、
「労働時間を減らせば研修の質が必ず落ちる」
とも言えないし、
「労働時間を減らしても研修には絶対に何の影響もない」
とも言えません。これは2026年現在でも、かなり重要なポイントです。
その後の研究でも「一筋縄ではいかない」
その後のシステマティックレビューでも、結果は一貫していません。
2015年のレビューでは、勤務時間規制が患者診療に明確な影響を与えなかった研究が多い一方、研修教育については否定的な結果も少なくありませんでした。
また、2022年に発表されたRCTのシステマティックレビュー・メタ解析では、短い勤務シフトは医師の情緒的消耗をわずかに減らし、全体的なウェルビーイングへの不満も少なくした一方、在院日数や重大な医療エラーについて明らかな差は認められませんでした。
つまり、現時点でのエビデンスを一言でまとめるなら、
「勤務時間を短くすることだけで、研修の質が自動的に上がるわけでも下がるわけでもない。教育の設計や指導体制が非常に重要」
というのが妥当だと思います。

「慣れ」と「成長」は別物だった
これは、私自身が当直を経験してきて感じたことです。
当直を繰り返していると、ある時期から急に楽になります。夜中に救急外来から電話が来ても、「ああ、たぶんこのパターンだな」と予想できるようになる。病棟からの電話にも、以前ほど慌てなくなる。
これは間違いなく成長です。ただし、正確には「慣れ」という側面もあります。
慣れとは、同じようなパターンへの対応が速くなること。
成長とは、これまで経験したことのない状況にも対応できるようになること。
この2つは似ていますが、同じではありません。
当直を100回経験したとしても、100回すべてが新しい学習になるわけではありません。
逆に、たった1回の症例でも、「なぜこの患者さんはこうなったのか」「別の診断はなかったか」「治療選択は適切だったか」と振り返れば、大きな学びになることがあります。
だからこそ、これからの医師教育では、「何時間働いたか」だけではなく、「何を経験し、何を考え、どのようなフィードバックを受けたか」を大切にする必要があると思います。
働き方改革で失うもの・得るもの
では、働き方改革によって何が変わるのでしょうか。私なりに整理すると、こんなイメージです。
減る可能性があるもの
- 夜間・休日に診療する症例の絶対数
- 自分一人で初期判断を迫られる場面
- 特定の手技・処置を経験する機会
- 上級医と長時間一緒に働くことによる非公式な学習
- 同じ患者さんを長時間継続して診る経験
特に、症例数や手技数については、勤務時間が短くなれば減少する可能性があります。この点は「働き方改革に反対だから」と無視するのではなく、医学教育上の課題としてきちんと認識すべきだと思います。
増える可能性があるもの
- 睡眠・休息の時間
- 症例を振り返る時間
- 文献を読む時間
- 上級医からフィードバックを受ける時間
- 家族と過ごす時間
- 育児や家庭生活に関わる時間
- 医師として長く働き続けるための余力
「家族との時間」を単なるプライベートの話として片付けたくはありません。医師も一人の人間です。家族との時間を持ち、睡眠をとり、自分自身の生活を維持することは、長い医師人生を考える上で無視できない要素です。
実際、医師のバーンアウトは患者安全上の問題とも関連することが報告されています(Panagioti et al., JAMA Intern Med, 2018)。ただし、こうした研究の多くは観察研究であり、因果関係を単純に断定することはできません。
だからこそ、「働き方改革=医師が楽をするための制度」と考えるのも、「働き方改革=医学教育を壊す制度」と考えるのも、どちらも一面的だと思います。

経験値不足をどう補うか
勤務時間が短くなって症例経験が減る可能性があるなら、どうすればいいのでしょうか。「量が減った分、質を上げよう」と言うのは簡単ですが、具体的な方法が必要です。
1. 一症例を深く学ぶ
当直で診た患者さんについて、翌日に少しだけ振り返る。
- 診断は本当に正しかったか
- 他にどんな鑑別があったか
- なぜこの検査を選んだのか
- 治療開始のタイミングは適切だったか
- ガイドラインではどうなっているか
「昨日の患者さんを、今日もう一度勉強する」これだけでも、経験を単なる「通過した症例」から「自分の知識」に変えることができます。
2. 「自分で考えてから相談する」
ただ「どうしたらいいですか?」と聞くだけではなく、「私は肺炎を第一に考えています。ただ、肺塞栓症も否定できないと思っています。現時点では造影CTを考えていますが、先生はどう考えますか?」というように、自分の考えを持った上で相談する。
そうすれば、一つの症例から得られる学びは大きくなります。
3. シミュレーション教育を活用する
急変対応、気道管理、心肺蘇生、各種手技などは、シミュレーション教育を活用できます。もちろん、シミュレーションが実際の患者診療を完全に代替することはできません。
しかし、実際の患者さんでは何度も練習できない状況を、安全な環境で繰り返し経験できるという大きなメリットがあります。実症例+シミュレーション+振り返りを組み合わせることが重要です。
4. 症例検討会・学会を利用する
自分が直接経験できる症例には限界があります。だからこそ、他の医師が経験した症例から学ぶことも重要です。症例検討会や学会では、「自分ならどうするか」を考えてから解説を聞くだけでも、疑似的な臨床経験になります。
5. 「経験したい症例」を意識する
勤務時間が限られるのであれば、意識して経験を取りに行くことも重要です。自分が今後身につけたい経験を意識しておく。「勤務時間が短い=経験できない」ではなく、限られた時間の中で何を経験するかを選ぶという発想も大切です。

若手医師へ、そして自分自身へ
働き方改革が始まってから、「昔の医師はもっと働いていた」という話を聞く機会があります。確かに、昔の医師が非常に厳しい環境で働いていたことは事実でしょう。そして、そこから得られた経験や技術を否定する必要もありません。
ただし、「自分たちが長時間働いて成長した」ことと、「だから若い医師も同じ時間働くべきだ」という話は別です。
長時間労働によって得られたものがある一方で、睡眠不足や疲労による負担もあります。過去の働き方をすべて否定する必要もなければ、すべて美化する必要もない。
大切なのは、過去の医師が長時間働くことで得ていた学習機会を、これからどのように別の形で残していくかだと思います。
そして若手医師側も、制度に守られるだけではなく、自分の成長に責任を持つ必要があります。
当直が減った。勤務時間が短くなった。だから成長できなくなった——ではなく、
「では、空いた時間でどう学ぶか?」
と考えてみる。一症例を深く振り返る。上級医に質問する。ガイドラインを読む。シミュレーションで練習する。学会で他人の症例を学ぶ。
そうやって、経験の「量」を経験の「密度」で補っていく。これからの医師教育では、そうした考え方がますます重要になるのではないでしょうか。
よくある疑問Q&A
Q. 働き方改革で研修医・専攻医の技術が落ちるというのは本当ですか?
A. 「落ちる」と一概には言えません。
海外の研究では、勤務時間規制によって研修への悪影響を示した研究もあります。一方で、明確な差を認めなかった研究も多く、患者アウトカムについても一貫した悪化は確認されていません。研究結果は診療科、勤務形態、教育体制などによって異なります。したがって、「勤務時間が短い=研修の質が低い」と断定するのは適切ではありません。
Q. 当直が多い病院と少ない病院、研修先としてどちらがいいですか?
A. 当直回数だけで判断するのはおすすめしません。
それ以上に、どの程度の症例を経験できるか・指導医がどの程度いるか・若手医師が自分で判断する機会があるか・手技を経験できるか・症例の振り返りが行われているか・研修プログラムの時間外労働の想定最大時間数がどの程度か、などを総合的に見るべきです。特にC-1水準については、研修プログラムごとに想定される時間外・休日労働の最大時間数が示される仕組みになっています。
Q. C-1水準なら年間1860時間まで働いたほうが経験を積めますか?
A. いいえ。1860時間は「目標」ではなく「上限」です。
C-1水準は、研修上やむを得ず長時間労働が必要となる場合の特例です。年間960時間以内で十分に研修できるのであれば、A水準が原則です。
Q. 「昔はもっと働いた」という先輩の話は間違いですか?
A. その先生の経験そのものが間違いというわけではありません。
長時間働いたことで、多くの症例を経験し、成長した医師は実際にいるでしょう。ただし、「自分がその方法で成長した」ことから「全員が同じ方法で成長すべき」と結論づけることはできません。昔の働き方から学べる部分を残しながら、現在の制度や価値観に合った医学教育を考えることが重要です。
Q. 働き方改革で医師の魅力は下がりましたか?
A. 私はそうは思いません。
確かに、夜中まで上級医や同期と一緒に働き、当直室で議論するような「昔ながらの医師生活」は減っていくかもしれません。一方で、睡眠や家庭生活を確保しながら医師を続けられる可能性が高まることは、大きな意味があります。
医師という仕事の魅力が「どれだけ長時間働けるか」ではなく、「どれだけ長く、良い状態で患者さんに向き合えるか」という方向に変わっていくのであれば、それは悪い変化ではないと私は思います。
まとめ
- 2024年4月から、医師にも時間外・休日労働の上限規制が適用された
- 基本となるA水準では、時間外・休日労働は年間960時間が上限
- 地域医療や研修など一定の要件を満たす場合には、B・連携B・C-1・C-2水準として年間1860時間の特例がある
- 1860時間は「働くべき時間」ではなく、あくまで上限。C-1水準も全員に自動適用されるわけではない
- A水準では連続勤務時間制限・インターバルは努力義務であり、B・C水準とは異なる
- 当直が減れば、夜間・休日に経験できる症例数が減るという意味で「量の経験」は減る可能性がある
- 一方で、長時間労働そのものが臨床能力を高めるとは限らず、海外研究でも結果は一貫していない
- 「勤務時間の長さ」だけでなく、症例数・指導体制・フィードバック・振り返りを含めて研修の質を考える必要がある
- 限られた勤務時間でも、一症例を深く学ぶことで経験の密度を高めることができる
「働き方改革で経験値は減るのか?」この問いに対して、私は今のところ、
「減る経験はある。でも、それを理由に昔の長時間労働へ戻る必要はない」
と考えています。
むしろ、これから問われるのは、「限られた時間の中で、どうすれば医師を十分に育てられるのか」ということなのだと思います。
医師の働き方改革は、「医師が楽をするための制度」でも、「医学教育を壊す制度」でもありません。長時間労働によって得られていた経験を正しく評価しつつ、睡眠・健康・家庭生活を犠牲にしなくても質の高い医学教育を受けられる仕組みを作っていく——それが、これからの医療に求められていることではないでしょうか。
そして何より、長く医師として働き続けられること自体が、患者さんにとっても大切なことです。
次の世代には、「死ぬほど働かなくても、しっかり成長できる」医療現場を残していきたい。私自身も、呼吸器内科医として、そして一人の子育て中の医師として、そんな働き方を模索していきたいと思っています。
参考文献・情報源
- 厚生労働省「医師の働き方改革」
- 厚生労働省「医師の時間外労働規制について」
- 厚生労働省「C-1水準(臨床研修医・専攻医)について」
- Moonesinghe SR, et al. Impact of reduction in working hours for doctors in training on postgraduate medical education and patients’ outcomes: systematic review. BMJ. 2011;342:d1580.
- Bolster L, Rourke L. The Effect of Restricting Residents’ Duty Hours on Patient Safety, Resident Well-Being, and Resident Education: An Updated Systematic Review. J Grad Med Educ. 2015.
- Resident duty hours and resident and patient outcomes: Systematic review and meta-analysis. 2022.
- Gates M, et al. Impact of fatigue and insufficient sleep on physician and patient outcomes: a systematic review. BMJ Open. 2018;8:e021967.
- Panagioti M, et al. Association Between Physician Burnout and Patient Safety, Professionalism, and Patient Satisfaction: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Intern Med. 2018.
- European Union. Directive 2003/88/EC concerning certain aspects of the organisation of working time.
※本記事は2026年8月31日時点で確認できる制度・文献をもとに作成しています。制度の適用関係は、勤務する医療機関、研修プログラム、勤務形態等によって異なります。本記事は筆者個人の経験・見解を含むものであり、すべての医師・医療機関に当てはまるものではありません。
Dr.はると|呼吸器内科医・子育て中の父

Dr.はると|呼吸器内科専門医・0歳児パパ
医師として働きながら、資産形成・育児の両立に取り組んでいます。
「医師目線のリアルな情報」を届けるべく、資産形成・育児・医療知識のテーマで発信中。
「難しい情報をわかりやすく」をモットーに、忙しい医師・子育て中の親御さんに役立つ記事を書いています。
