「うちの子、発達が気になる」と感じたとき——ASD・ADHDの基礎知識と、親が最初に取るべき行動
「同じくらいの年齢の子と比べると、なんとなく違う気がする」
「名前を呼んでも、あまり振り向かない」
「言葉がなかなか増えない」
「落ち着きがなさすぎるように感じる」
子どもの発達について、こうした漠然とした不安を感じる親御さんは決して少なくありません。
一方で、発達の悩みは人に相談しにくいものでもあります。
「まだ小さいし、考えすぎなのかな」
「神経質な親だと思われないかな」
「発達障害という言葉を使うのが怖い」
「ネットで調べるほど不安になってしまう」
そんな気持ちを抱えながら、スマートフォンで検索を繰り返している方もいるのではないでしょうか。
私自身、呼吸器内科医として日々診療を行う一方、子育てをする父親でもあります。発達医学は私の専門分野ではありませんが、親になってから「子どもの発達」というテーマを以前よりずっと身近に感じるようになりました。
そこでこの記事では、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)を中心に、「子どもの発達が気になったとき、親が知っておきたいこと・最初に何をすればよいのか」を、できるだけ分かりやすく整理します。
なお、私は小児科専門医・小児神経科医・児童精神科医ではありません。本記事は医学・行政機関等の公表情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別のお子さんについて診断するものではありません。気になる点がある場合には、かかりつけの小児科、市区町村の乳幼児相談、発達を専門とする医療機関などにご相談ください。
本記事は2026年8月31日時点で確認できる情報をもとに作成しています。
目次
- そもそも「発達障害」とは何か
- ASD・ADHD・限局性学習症(SLD)の違い
- 「グレーゾーン」とは何か
- 発達が気になるときのサイン
- 「このサインがあればASD」と判断してはいけない理由
- 親が最初にやるべき3つのこと
- どこに相談すればよいのか
- 診断を受けることにはどんな意味があるのか
- 療育・児童発達支援とは
- 家庭でできること・避けたいこと
- よくある疑問 Q&A
- まとめ
そもそも「発達障害」とは何か
一般に「発達障害」と呼ばれる状態には、ASD、ADHD、限局性学習症などが含まれます。
これらは、子どもの脳が発達していく過程に関連して現れる神経発達症(neurodevelopmental disorders)の一部として捉えられています。
ここで大切なのは、発達障害を単純に「できる・できない」で考えないことです。
たとえば、
- 言葉で説明されるより、絵や文字で示されたほうが理解しやすい
- 予定が突然変わることがとても苦手
- 好きなことには驚くほど集中できる一方、興味のないことへの集中が難しい
- 音や光、服の感触などを他の人より強く感じる
といった特徴がみられることがあります。
つまり、単純な能力の「高い・低い」ではなく、認知・コミュニケーション・注意・感覚などに得意不得意の偏りがあると考えると分かりやすいでしょう。
なお、「発達障害=知的障害ではない」という説明を見かけることがありますが、少し注意が必要です。
ASDやADHDそのものは知能の高さだけで決まるものではなく、知的能力が平均以上の人にもみられます。一方で、ASDと知的発達症(知的障害)が併存する場合もあります。
したがって、「発達障害だから知的能力には問題がない」「知的障害があればASDではない」という単純な関係ではありません。

ASD・ADHD・限局性学習症(SLD)の違い
精神医学の国際的な診断分類の一つとして、現在は米国精神医学会のDSM-5-TR(DSM-5 Text Revision)が使用されています。
日本語版DSM-5-TRは2023年に刊行されており、2013年に発表されたDSM-5から一部の記載や用語などが更新されています。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASDはAutism Spectrum Disorderの略です。大きく分けると、
- 社会的コミュニケーションや対人関係の難しさ
- 限定された興味、反復する行動、強いこだわり、感覚の偏りなど
といった特徴がみられます。
以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などに分けられていましたが、DSM-5以降は原則として自閉スペクトラム症という一つの枠組みにまとめられました。
「スペクトラム」という名前のとおり、現れ方は一人ひとりかなり異なります。ほとんど言葉を使わず日常生活に多くの支援を必要とする人もいれば、会話や仕事を普通に行いながら、対人関係や感覚過敏などに強い困難を抱えている人もいます。

ADHD(注意欠如多動症)
ADHDはAttention-Deficit/Hyperactivity Disorderの略です。主な特徴は、不注意・多動性・衝動性の3つです。
ただし、すべての人が「走り回って落ち着かない」わけではありません。忘れ物が非常に多い、話を聞き続けることが難しい、物を頻繁になくすといった不注意が中心となるケースもあります。
また、幼児はもともと注意が移りやすく、活発に動くことが普通です。そのため、「よく動く=ADHD」という判断はできません。年齢や発達段階から考えて特徴が明らかに強く、家庭・園・学校など複数の場面で生活上の困難につながっているかどうかが重要です。

限局性学習症(SLD)
限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)は、読む・書く・計算するといった特定の学習技能の習得に持続的な困難が生じる状態です。
会話や日常生活には大きな問題がなくても、文字を正確に読むことが非常に難しい、計算だけが極端に苦手、といった形で現れることがあります。「勉強していないだけ」「努力不足」と誤解されてしまうことがありますが、単なる努力量だけでは説明できない困難が続くことが特徴です。

ASDとADHDは一緒に存在することもある
ASD、ADHD、限局性学習症などは、それぞれ完全に独立しているわけではありません。ASDとADHDの両方の診断基準を満たすこともあります。
さらに、発達の問題を評価するときには、知的発達、言語発達、聴覚・視覚、睡眠、てんかん、不安症など、他の問題がないかについても総合的に考える必要があります。「この行動があるからASD」「落ち着かないからADHD」と一つの特徴だけで判断できないのはこのためです。
通常の学級にも「学習・行動面で困難を抱える子」は珍しくない
文部科学省が2022年に実施した調査では、通常の学級に在籍する小中学生のうち、担任等への質問調査から「知的発達に遅れはないものの、学習面または行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒は推定8.8%でした。35人学級で考えると、およそ3人に相当します。
ただし、この数字には非常に重要な注意点があります。
8.8%は「発達障害と診断された子どもの割合」ではありません。
医師による診断や専門家による評価ではなく、担任等への質問調査に基づく数字です。文部科学省自身も、この調査結果が医師による診断ではないと明示しています。そのため、「日本の子どもの8.8%が発達障害である」と解釈するのは誤りです。
一方で、学習や行動について何らかの支援を必要とする子どもが通常の学級にも一定数いることを示すデータとしては重要でしょう。
「グレーゾーン」とは何か
発達について調べていると、「発達障害グレーゾーン」という言葉をよく見かけます。ただし、「グレーゾーン」は正式な医学的診断名ではありません。
一般的には、発達障害に似た特徴はあるものの診断基準を満たすとは限らない、それでも本人や家族が生活上の困難を感じている、といった状態を表現するために使われています。
人の発達特性は、本来きれいに「ある・ない」の2種類に分かれるものではありません。誰にでも多少は「こだわり」「忘れっぽさ」「人付き合いの苦手さ」はあります。その程度や組み合わせ、そして生活への影響によって、医学的な診断が必要になる場合があります。
ここで親として最も大切なのは、「診断名がつくかどうか」だけに目を向けず、「この子はいま何に困っているのか」を考えることです。 診断がなくても、必要性が認められれば利用できる福祉・発達支援があります。

発達が気になるときのサイン
ここからは、親御さんが気づきやすい発達上のサインを紹介します。ただし、最初に強調しておきたいことがあります。
以下は「ASD・ADHD診断チェックリスト」ではありません。
子どもの発達には大きな個人差があります。一つ当てはまったからといって発達障害というわけではありません。複数の気になる点が続いている場合や、以前できていたことができなくなった場合には、相談するきっかけにしてよいでしょう。

乳児期〜1歳台で気になること
- 人の顔や目を見ることが極端に少ないように感じる
- 名前を呼んでも反応することが少ない
- バイバイなどの身振りがなかなか出てこない
- 興味のあるものを指さして大人に伝えようとする様子が少ない
- 人と一緒に楽しむ、興味を共有するといった様子が少ない
- 言葉や身振りなど、以前できていたことが失われた
特に「一度獲得した言葉やコミュニケーション能力が失われた」などの発達の退行がある場合には、「もう少し様子を見よう」と長期間待つのではなく、小児科などへ相談することをおすすめします。
1歳6か月〜3歳ごろ
- 言葉の発達が周囲と比べてかなりゆっくりに感じる
- 大人の動作をまねすることが少ない
- 言葉や身振りを使った「やり取り」が成立しにくい
- 同じ行動を繰り返すことが非常に多い
- 予定や順番の変化に対する抵抗が非常に強い
- 特定の音・触感・においへの反応が極端に強い
3歳以降で目立ってくること
- 会話のキャッチボールが続きにくい
- 場面に応じた行動の切り替えが極端に難しい
- 同年代と比べて著しく衝動的に行動する
- 危険だと分かっていても飛び出すなど、安全面で困ることが多い
- 物を頻繁になくす、次々と別のことを始めてしまう
ADHDについては、幼児期には「年齢相応の活発さ」との区別が難しい場合があります。単に落ち着きがないかどうかではなく、年齢からみて程度が強いか、家庭だけでなく園など他の場面でもみられるか、安全・生活・集団参加などに実際の支障が出ているかが重要です。
「○歳で○○できない=発達障害」ではない
ネット上では、「1歳で指さしをしなければ自閉症」「2歳で二語文が出なければ発達障害」といった情報を見かけることがあります。しかし、これは正確ではありません。
発達の節目(developmental milestone)は、多くの子どもがその年齢までに獲得する行動を知るための目安にはなりますが、一つの項目だけで疾患を診断するものではありません。
米国CDCも発達マイルストーンについて、標準化された発達スクリーニング検査の代わりになるものではないと明記しています。
言葉が遅れている場合にも、単純な個人差だけでなく、聴力の問題、発達性言語症、知的発達の問題、ASDなど、さまざまな可能性があります。したがって、家庭でチェックリストを使う目的は「診断すること」ではなく、相談したほうがよいかを考える材料にすることです。

1歳6か月児健診・3歳児健診は大切な相談機会
日本では、母子保健法に基づき、市町村が1歳6か月児健診と3歳児健診を実施します。1歳6か月児健診では、身体発育だけでなく、精神発達の状況、言語発達、育児上の問題なども確認項目に含まれています。3歳児健診でも、発達を含めたさまざまな観点から子どもの状態を確認します。
「こんな程度のことを聞いてもいいのかな」と思わず、気になることがあれば問診票に書いたり、保健師・医師に直接伝えたりして構いません。乳幼児健診は「異常を指摘される場」ではなく、子育てについて相談する場でもあります。

親が最初にやるべき3つのこと
① できる・できないだけでなく「具体的な場面」を記録する
「落ち着きがない」「コミュニケーションが苦手」という表現だけでは、専門家も状況を判断しにくいことがあります。それよりも、「名前を5回呼んでも振り向かないことが多い」「スーパーでは毎回走り出してしまう」「予定が変わると30分ほど泣き続ける」など、「いつ・どこで・何が起きるのか」を具体的に伝えるほうが役立ちます。スマートフォンのメモでも十分です。
② 園の先生など、家庭以外での様子も聞く
発達特性を考えるうえでは、家庭だけでなく、保育園・幼稚園・学校など別の環境でどのように過ごしているかも重要です。「家ではこうなのですが、園ではどうですか?」と先生に聞いてみましょう。
③ 心配なら相談する
「診断されるほどではないかもしれないから」と相談をためらわないことが最も大切です。医療機関や保健センターへの相談は、診断をつけるためだけに行くものではありません。「年齢相応の範囲なのか」「少し経過を見てもよいのか」「発達評価を受けたほうがよいのか」を整理するために相談する、と考えて構いません。

どこに相談すればいい?
① 市区町村の保健センター・乳幼児相談
「病院に行くほどなのか分からない」という段階で、とても相談しやすい窓口です。保健師などに相談でき、必要に応じて心理職、医療機関、療育機関などにつないでもらえることがあります。自治体によって「発達相談」「子育て相談」など名称は異なります。
② かかりつけの小児科
普段から診てもらっている小児科があれば、まず相談して構いません。必要に応じて、発達を専門とする小児科、小児神経科、児童精神科などへ紹介してもらうこともあります。言葉の遅れがある場合には、聴力など発達障害以外の原因を検討することも重要です。
③ 発達障害者支援センター
発達障害者支援センターでは、発達障害のある本人や家族に対する相談、発達支援、就労支援、情報提供、関係機関との連携などが行われています。各都道府県・指定都市において支援体制が整備されていますが、対象年齢や相談方法などは地域によって異なるため、居住地域の窓口を確認してください。
④ 発達外来・小児神経科・児童精神科など
より詳しい発達評価が必要な場合には、発達を専門とする医療機関を受診します。診断は問診だけで一瞬で決まるものではありません。出生・発達歴、家庭や園での様子、行動観察、必要に応じた発達検査・知能検査など、複数の情報を組み合わせて評価します。地域によっては初診予約まで時間を要することもあるため、心配が強い場合には、まず自治体やかかりつけ小児科へ相談しておくとよいでしょう。
「様子を見ましょう」と言われたときに確認すること
発達相談では「今の段階では様子を見ましょう」と言われることがあります。これは必ずしも「問題ありません」という意味ではなく、成長による変化を確認することが適切な場合もあります。ただし、「ただ待つだけ」にしないことが大切です。
- どのくらいの期間、様子を見るのか
- その間、どんな変化を観察すればよいのか
- どんな状態になったら予定より早く再相談すべきか
を確認しておきましょう。
診断を受けることにはどんな意味があるのか
「発達障害と診断されたら、この子の人生が決まってしまうのではないか」——そんな不安を感じる方もいるでしょう。しかし、診断名は子どもの人格そのものを表すものではありません。診断の大きな目的の一つは、「その子がなぜ困っているのかを整理し、必要な支援につなげること」です。
特性を言語化することで、園や学校との情報共有がしやすくなり、指示を短く伝える・予定を絵や文字で見せる・課題を小さなステップに分けるといった具体的な環境調整につながることがあります。また、診断や医学的評価が、療育・教育・福祉サービスを検討する際の参考になることもあります。
ただし重要なのは、「診断がなければ支援を一切受けられない」というわけではないことです。

「療育」とは何をするもの?
一般に「療育」と呼ばれるものは、発達に特性や遅れのある子どもに対し、コミュニケーション、生活動作、遊び、社会参加など、その子に必要な力を伸ばし生活しやすくするための発達支援を指します。「発達障害を治して普通の子にする訓練」というイメージは適切ではなく、その子自身の発達段階や特性に合わせ、できることを増やしたり、困りごとを減らしたりする支援と考えるほうがよいでしょう。
児童発達支援(未就学児)
児童福祉法に基づく障害児通所支援の一つで、主として未就学の子どもが利用します。遊びや日常生活を通じて、コミュニケーション、生活動作、運動、社会性などの発達を支援します。事業所によっては言語聴覚士、作業療法士、心理職などが関わることもあります。
放課後等デイサービス(就学後)
学校に就学している障害児を対象とする障害児通所支援です。放課後や学校休業日に利用し、生活能力の向上や社会との交流などを目的とした支援を受けます。利用には市区町村による通所給付決定(受給者証の交付)が必要です。
診断がなくても利用できる場合がある
児童発達支援などの障害児通所支援は、必ずしも特定の診断名がついていなければ利用できないわけではありません。 年齢なども考慮したうえで、障害が想定され、療育・支援の必要性が認められる場合には、診断名が確定していなくても対象となり得ます。ただし、必要書類や運用は自治体によって異なるため、まず市区町村の障害児福祉・子育て担当窓口に相談してください。

「早ければ早いほど必ず良い」わけではないが、放置はしない
「療育は1日でも早く始めなければ手遅れになる」といった表現を見かけることがあります。これは少し言い過ぎです。
ASDなどでは、発達早期からその子に合った支援につなぐことには重要な意味があります。WHOも、適切な心理社会的介入によってコミュニケーションや社会的技能、本人や家族の生活の質を改善できる可能性を示しています。
一方、「何歳までに始めなければ効果がない」「開始が1か月早ければ必ず結果がよくなる」と単純に言えるものではありません。 支援の効果は、子どもの特性、支援内容、頻度、家庭・園の環境などによって異なります。
大切なのは「早さだけを競う」ことではなく、気になる困りごとがあれば放置せず、その子に必要な評価や支援へ適切なタイミングでつなげることです。

家庭で親ができること・避けたいこと
子どもが指示通り動いてくれないと、つい「何回言ったら分かるの?」と言いたくなります。しかし実際には、言葉だけでは理解しにくい、指示が長すぎる、周囲の音が気になって聞けない、次に何が起きるか分からず不安、といった理由が隠れている場合があります。
「言うことを聞かない」ではなく、「何があればできるのだろう?」と考えてみることが大切です。伝え方を一つずつシンプルにする、予定を絵や文字で示すなど、小さな工夫が助けになることがあります。
また、困りごとが続くと「できないこと」にばかり目が向きがちですが、「今日は自分から靴を履けた」「昨日より少し早く気持ちを切り替えられた」といった小さな変化も大切な成長です。
避けたいのは、発達特性からくる困難を「やる気がない」「しつけが悪い」と決めつけることです。ASDやADHDは、単純に親の育て方によって生じるものではなく、遺伝的要因を含む複数の生物学的要因が関係すると考えられています。
親の育て方が発達障害を「作る」のではない。しかし、その子に合った環境を作ることで、本人が生活しやすくなる余地は大きいという捉え方がよいでしょう。
なお、心配のある子どもを育てていると、親自身が疲弊してしまうこともあります。ペアレントトレーニングや保健師・心理職への相談など、親のための支援も選択肢として知っておいてください。
よくある疑問 Q&A
Q. 「様子を見ましょう」と言われました。本当に待っていていい?
A. 「様子を見る」こと自体が間違っているわけではありませんが、期限のない様子見はおすすめしません。「いつ再評価するのか」「何を観察するのか」「どんな変化があれば早めに相談するのか」を確認しましょう。なお、以前できていた言葉・動作などが失われる「退行」がある場合は、次の健診まで待たず小児科へ相談してください。
Q. 発達障害は遺伝しますか?
A. ASDやADHDには遺伝的要因が強く関係することが分かっています。ただし、一つの遺伝子だけで決まる単純な遺伝ではなく、多数の遺伝的要因などが複雑に関係します。「親に発達特性があるから子どもも必ず発達障害になる」といった単純なものではありません。
Q. ADHDなら薬を飲まなければいけませんか?
A. 必ずしもそうではありません。ADHDの治療では、本人や家族への心理教育、環境調整、行動面への支援などを行い、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。日本では小児のADHDに対して、メチルフェニデート徐放製剤、アトモキセチン、グアンファシン徐放製剤などが使用されることがあります。薬を使うかどうかは、年齢、症状、生活への支障、副作用のリスクなどを踏まえて医師と相談して決めます。
Q. ASDを治す薬はありますか?
A. 現時点で、ASDの社会的コミュニケーションの特徴や限定・反復行動などの「中核的な特徴そのもの」をなくす標準的な薬物療法はありません。ただし、ASDに伴う強い不安、睡眠の問題、易刺激性、ADHD症状など、併存する症状に対して薬物療法を検討する場合があります。
Q. 保育園・幼稚園には伝えたほうがいい?
A. 子どもが園生活で困っているのであれば、情報を共有することには大きな意味があります。必ずしも診断名を伝えるところから始める必要はありません。「大きな音が苦手です」「予定が急に変わると混乱します」など、具体的な特徴を伝えるだけでも役立ちます。
Q. 診断なしでも療育は受けられますか?
A. 可能な場合があります。障害児通所支援の利用については、必ずしも診断名だけで判断されるわけではなく、支援の必要性などを踏まえて市区町村が通所給付決定を行います。必要書類や運用には地域差があるため、自治体の担当窓口へ確認してください。
まとめ——「診断名」より先に、「この子は何に困っている?」を考える
子どもの発達が気になったとき、まず知っておいてほしいことをまとめます。
- ASD・ADHDなどは神経発達に関連する特性で、「知的能力が高ければ発達障害でない」「知的障害があればASDでない」という単純な関係ではありません
- 一つの行動や発達マイルストーンだけで発達障害を診断することはできません
- 文部科学省の「8.8%」は発達障害の有病率ではなく、学習・行動面で著しい困難を示すと担任等が回答した児童生徒の推定割合です
- 気になることがあれば、具体的な場面を記録し、保健センターやかかりつけ小児科へ相談しましょう
- 「様子を見る」ときには、期間と観察ポイントを明確にしましょう
- 診断が確定していなくても、必要性が認められれば発達支援につながれる場合があります
- 「1日でも早く療育を始めなければ」と焦るより、気になる困りごとを放置せず、適切なタイミングで評価・支援につなげることが大切です
- 発達障害は親の育て方が原因ではありません。自分を責めないでください
毎日その子を見ているからこそ気づく変化があります。「なんとなく気になる」という感覚を大切にしながら、まず「一度相談してみる」くらいの気持ちで専門家につながってみてください。
発達支援の目的は、子どもを「普通」に近づけることではありません。その子自身が持っている力を活かしながら、困りごとを少しでも減らし、本人と家族が生活しやすい環境をつくっていくこと。 それが最も大切な視点だと考えています。
参考文献・情報源
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision(DSM-5-TR)
- American Psychiatric Association/日本精神神経学会用語監修「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院、2023年
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)」
- 厚生労働省「発達障害者支援施策の概要」
- 母子保健法・母子保健法施行規則
- こども家庭庁・厚生労働省「障害児通所給付費に係る通所給付決定事務等」関連資料
- 日本小児神経学会「発達障害児の早期発見のポイント」
- Centers for Disease Control and Prevention(CDC)”Learn the Signs. Act Early.” Developmental Milestones
- World Health Organization(WHO)Autism Fact Sheet
- World Health Organization(WHO)Caregiver Skills Training for families of children with developmental delays or disabilities
- National Institute for Health and Care Excellence(NICE)Autism spectrum disorder in under 19s: support and management
- PMDA 医療用医薬品添付文書(メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン)
※本記事は一般的な医学・制度情報を提供するものであり、個別の診断・治療を目的としたものではありません。発達について心配がある場合は、かかりつけ小児科、市区町村の保健センター、発達を専門とする医療機関等へご相談ください。
Dr.はると|呼吸器内科医・子育て中の父

Dr.はると|呼吸器内科専門医・0歳児パパ
医師として働きながら、資産形成・育児の両立に取り組んでいます。
「医師目線のリアルな情報」を届けるべく、資産形成・育児・医療知識のテーマで発信中。
「難しい情報をわかりやすく」をモットーに、忙しい医師・子育て中の親御さんに役立つ記事を書いています。
