「先生、節税になりますよ」——勤務医が新築ワンルームマンション投資を慎重に考えるべき理由
「先生は高収入で節税ニーズがおありですよね。不動産投資はいかがでしょうか」
「新築ワンルームなら管理も楽ですし、毎月家賃収入が入りますよ」
「ローンの返済は家賃でまかなえますし、先生の負担はほとんどありません」
勤務医であれば、こうした営業トークを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
病院内でのセミナー、知人や同僚からの紹介、電話、SNSのDM——アプローチの方法はさまざまですが、共通しているのが「高収入の医師だからこそ、不動産投資で節税しながら資産形成できます」という説明です。
私自身も資産形成について本格的に勉強する前は、「節税になるなら検討してもいいのでは?」と思ったことがあります。
しかし、税金の仕組みや不動産投資の収支を具体的に勉強していくと、少なくとも「節税」を主目的として新築ワンルームマンションを購入することには、かなり慎重になるべきだと考えるようになりました。
もちろん、すべての不動産投資が悪いわけではありません。優良な物件を適切な価格で購入し、長期的に収益を上げている投資家もいます。
この記事では、特に勤務医に営業されることの多い「新築区分ワンルームマンション投資」について、なぜ注意が必要なのか、「節税になる」という言葉の意味は何なのか、そして実際に検討するなら何を確認すべきなのかを、医師×資産形成の視点から整理します。
※本記事は2026年8月28日時点の制度・法律等をもとに作成しています。税務・投資判断は個々の状況によって異なるため、具体的な判断は税理士等の専門家への相談をおすすめします。
目次
- なぜ医師は不動産営業のターゲットになりやすいのか
- 新築ワンルームマンション投資で注意したいポイント
- 「節税になります」という営業トークの実態
- 減価償却は「魔法の節税」ではない
- サブリース(家賃保証)の落とし穴
- 出口(売却)まで考えないと本当の損益は分からない
- 実際のシミュレーション:「家賃でローン返済できます」の意味
- 勤務医が不動産投資を考えるなら
- よくある疑問Q&A
- まとめ
なぜ医師は不動産営業のターゲットになりやすいのか
不動産会社から見ると、医師は魅力的な顧客になりやすいと考えられます。
理由の一つが、安定した高所得と高い信用力です。医師は一般的に収入が高く、勤務先や勤続状況などの条件によっては、金融機関から比較的大きな融資を受けられる場合があります。営業担当者からすると、「先生ならこのくらい借りられます」という融資可能額は、そのまま購入できる物件価格の大きさにつながります。
もう一つの理由が、忙しいことです。診療、当直、学会、研究、家庭生活などに追われる勤務医にとって、不動産の市場価格や周辺家賃、修繕履歴、管理費、ローン条件、将来の売却価格まで自分で調べるのは簡単ではありません。そこで、「先生はお忙しいでしょうから、管理はすべてこちらでやります」という営業トークが登場します。もちろん、管理業務を代行してくれること自体はメリットです。問題は、「お任せできること」と「投資判断をお任せしてよいこと」は別だということです。
そして、もう一つ大きいのが「節税したい」というニーズです。所得税は課税所得が増えるほど税率が高くなる累進課税です。2026年分の所得税率は5〜45%の7段階に分かれており、高所得者ほど「税負担を少しでも減らしたい」と考えやすくなります。そこに「不動産投資をすると所得税・住民税を節税できます」という説明が加わります。
ここで大切なのは、「節税できる」という言葉だけでなく、なぜ節税できるのか、そのために実際にはいくらお金が出ていくのかを見ることです。

新築ワンルームマンション投資で注意したいポイント
① 「新築だから高い」こと自体が悪いわけではないが、購入価格を慎重に見る
新築マンションには、土地・建物の原価だけではなく、建設費、販売費、広告費、営業コスト、事業者の利益など、さまざまなコストが含まれています。そのため、新築だから中古より必ず割高とまでは言えませんが、投資目的で購入する場合には、「同じような中古物件がいくらで取引されているのか」「現在の家賃から逆算した場合、購入価格は妥当なのか」を確認することが重要です。
特に注意したいのが、購入直後に売却するケースです。購入価格には販売会社の利益や諸費用などが含まれているため、購入直後に同じ価格で売れるとは限りません。「買った瞬間に何%下がる」と一律に決められるものではありませんが、購入価格と中古市場での評価額に差が生じる可能性は十分に考えておくべきです。
したがって、「3,000万円で買ったから、3,000万円の資産を持っている」と単純に考えるのではなく、「今この物件を第三者がいくらで買うのか」という視点を持つことが重要です。
② 表面利回りだけでは投資判断できない
営業資料でよく使われるのが「表面利回り」です。表面利回りは、簡単に言えば年間家賃収入÷物件価格です。例えば、3,000万円の物件で年間家賃収入が120万円なら、表面利回りは4%です。しかし、実際の賃貸経営では家賃がそのまま利益になるわけではありません。管理費・修繕積立金、固定資産税・都市計画税、賃貸管理会社への手数料、火災保険・地震保険等、空室期間の家賃減少、入退去時の原状回復・修繕費用、設備交換等の突発的な支出——これらすべてが発生します。
物件にもよりますが、表面利回りと実質利回りには、アパートなどで1.0~1.5%程度、大型マンションで2.0~2.5%の差があります。
つまり表面利回り4%の大型マンション物件の場合、実質利回りは1.5~2.0%程度になるということです。現金一括で購入するならまだしも、フルローンで購入する場合を考えると、手元にほとんど利益は残りませんよね。
③ 家賃は永久に購入時の水準とは限らない
購入時に「この地域は賃貸需要が高いです」と説明されたとしても、20年後、30年後まで同じ家賃・同じ入居率が保証されるわけではありません。築年数の経過、周辺物件との競争、人口・世帯数の変化、地域の再開発などによって、家賃や空室率は変化します。
特に投資用マンションでは、「現在の家賃で収支が合うか」だけではなく、「家賃が10%下落したらどうなるか」「数か月空室になったらどうなるか」まで試算することが重要です。

「節税になります」という営業トークの実態
ここが、勤務医が最も理解しておきたいポイントです。
不動産所得が赤字になると給与所得と損益通算できる
不動産所得は、家賃などの総収入から必要経費を差し引いて計算します。その結果、不動産所得が赤字になった場合、一定の制限はありますが、給与所得など他の所得と損益通算することができます。国税庁も、不動産所得の損失は原則として他の所得との損益通算の対象になるとしています。なお、土地取得のための借入金利子に相当する部分など、損益通算できない部分もあります。
例えば、単純化して考えてみます。年間の不動産所得が50万円の赤字だったとします。この50万円が損益通算できれば、給与所得などと合算した課税所得を50万円減らすことができます。仮に、その人の限界税率を所得税40%+住民税10%程度とすると、税負担が軽減される可能性があります。
しかし、ここで重要なのが「税金が減ること」と「投資で儲かること」は全く別だということです。50万円の赤字を出して、税金が仮に約25万円減ったとしても、単純化すれば「50万円損して25万円税金が減った」のであって、「25万円儲かった」わけではありません。
ただし、ここにも注意が必要です。不動産所得の税務上の赤字=銀行口座から50万円出ていくとは限りません。その理由が、次に説明する「減価償却」です。
「税務上の赤字」と「実際のキャッシュフロー」は分けて考える
不動産投資では、実際にはその年に現金を支出していない減価償却費を必要経費として計上できます。例えば、建物部分について毎年100万円の減価償却費を計上していたとします。その100万円は、その年に銀行口座から100万円が出ていくわけではありません。そのため、「税務上は赤字だけれど、実際のキャッシュフローは黒字」ということもあり得ます。
逆に、ローン返済のうち元本部分は原則として必要経費ではありません。そのため、「税務上は黒字なのに、実際の手元のお金は減っている」ということも起こります。この違いを理解しないまま「節税額」だけを見てしまうと、不動産投資の実態を大きく誤解してしまいます。

減価償却は「魔法の節税」ではない
「先生、実際にはお金が出ていかないのに、毎年100万円以上経費にできますよ」——不動産営業では、減価償却のメリットが強調されることがあります。確かに、減価償却は不動産所得を計算するうえで重要な仕組みです。しかし、「減価償却=永久に税金が安くなる魔法」ではありません。
建物の取得費は、減価償却によって税務上の帳簿価額が減少していきます。そして、建物・土地を売却する際の譲渡所得を計算するときには、建物の取得費から所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。つまり、減価償却によって取得費が小さくなるため、売却益が大きくなる方向に働きます。
そのため、「購入後:減価償却によって不動産所得を圧縮」→「売却時:減価償却後の取得費をもとに譲渡所得を計算」という関係になります。ただし、これを単純に「節税した税金が全部売却時に取り返される」と考えるのも正確ではありません。実際の税負担は、購入価格、土地・建物の按分、減価償却方法、売却価格、売却時期、譲渡費用などによって変わります。
重要なのは、「減価償却による節税効果だけを見るのではなく、購入から売却までのトータルの税引後キャッシュフローを見る」ことです。
売却時には譲渡所得への課税もある
土地・建物の売却による譲渡所得は、給与所得とは分離して課税されます。所有期間の判定は少しややこしく、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかで長期・短期を判定します。
長期譲渡所得の場合、所得税15%・住民税5%が基本で、これに復興特別所得税が加わります(一般的に復興特別所得税込みで約20.315%)。短期譲渡所得では所得税30%・住民税9%が基本で、復興特別所得税込みで約39.63%です。
したがって、不動産投資は「毎年の節税額」だけを見るのではなく、「売却したときに税引後でいくら残るのか」まで計算することが重要です。
サブリース(家賃保証)の落とし穴
「空室になっても家賃が入りますよ」——これがサブリース(マスターリース契約)の営業トークです。サブリースでは、サブリース業者がオーナーから物件を借り上げ、その物件を入居者に転貸します。空室時にも一定の家賃が支払われる契約であれば、オーナーにとって空室リスクを軽減できるメリットがあります。
しかし、「家賃保証=契約期間中ずっと同じ家賃が保証される」という意味ではありません。
国土交通省も、サブリースについて、将来的な家賃減額リスクや契約期間中の契約解除の可能性、オーナー側の修繕・維持保全費用の負担などを十分に説明する必要があるとしています。また、サブリース事業者には、誇大広告や不当な勧誘の禁止、契約締結前の重要事項説明などが法律上求められています。つまり、法律による規制は存在しますが、法律が「将来の家賃収入」を保証してくれるわけではありません。
契約前には、少なくとも以下を確認しましょう。保証家賃はいくらか、家賃の見直し時期はいつか、家賃減額の条件は何か、契約期間は何年か、中途解約の条件は何か、修繕費・原状回復費用は誰が負担するか、設備交換費用は誰が負担するか、サブリース会社が倒産した場合はどうなるか——「家賃保証」という言葉だけで安心せず、契約書の中身を見ることが大切です。

出口(売却)まで考えないと本当の損益は分からない
不動産投資では、毎月のキャッシュフローだけを見てはいけません。なぜなら、最終的な損益を大きく左右するのが「いくらで売れるか」だからです。
例えば、毎月1万円の赤字を20年間出したとします。年間12万円、20年間で240万円の持ち出しです。しかし、20年後に購入価格3,000万円の物件が3,200万円で売れれば、単純な比較ではプラスになる可能性があります。逆に、毎月のキャッシュフローがほぼトントンでも、20年後に売却価格が大きく下落していれば、最終的には損失になる可能性があります。
さらに注意したいのがローン残債です。物件価格の下落がローン元本の減少より速ければ、売却価格がローン残高を下回ることがあります。この場合、売却代金だけではローンを完済できず、不足分を自己資金で補填する必要が生じる可能性があります。
したがって、購入前には「10年後・20年後にいくらで売れる想定なのか」「その時点のローン残高はいくらなのか」を必ず確認しましょう。

実際のシミュレーション:「家賃でローン返済できます」の意味
具体例で考えてみましょう。以下は、あくまで仕組みを理解するための仮想例です。実際の物件の収益性を示すものではありません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 物件価格 | 3,000万円 |
| ローン | 3,000万円・35年・金利2% |
| ローン返済額 | 月約9.9万円 |
| 想定家賃 | 月8万円 |
| 管理費・修繕積立金 | 月1.5万円 |
| 固定資産税等(月換算) | 月0.5万円 |
| 賃貸管理手数料 | 月0.4万円 |
この場合、単純化すると、家賃8万円 − ローン9.9万円 − 管理費等1.5万円 − 税金0.5万円 − 管理手数料0.4万円で、毎月約▲4.3万円のキャッシュフローになります。年間では約▲52万円です。さらに、空室、家賃下落、設備故障、原状回復費用などが発生すれば、キャッシュフローはさらに悪化する可能性があります。
ただし、ここで「毎月4.3万円赤字だから、毎月4.3万円損している」と単純に考えるのも正確ではありません。ローン返済額のうち元本部分は、借金を減らして自分の純資産を増やしている側面があるからです。
だからこそ、不動産投資では、税務上の不動産所得・毎月のキャッシュフロー・ローン元本の減少・物件価格の変化・売却時の税金と諸費用——これらを分けて考える必要があります。
それでも、営業担当者から「家賃でローン返済できます」と言われた場合には、「ローンだけでなく、管理費・修繕積立金・固定資産税・管理手数料・空室まで含めると、毎月いくら残りますか?」と聞いてみてください。この質問に明確な数字で答えられない場合は、かなり慎重になったほうがよいでしょう。
勤務医が不動産投資を考えるなら
まずは「金融資産」と「不動産」を分けて考える
勤務医の資産形成を考えるなら、まずはNISAなどを利用した低コストの分散投資を土台にする方法がシンプルです。特に、全世界株式などのインデックスファンドは、少額から購入でき、価格や保有コストも比較的分かりやすく、売却による現金化もしやすいという特徴があります。もちろん株式にも価格変動リスクがあります。「必ず年○%儲かる」という商品ではありません。重要なのは、「自分が何に投資していて、どんなリスクを取っているのかを把握しやすい」ことです。
iDeCoも選択肢になる
iDeCoは、掛金が所得控除になるなど税制上のメリットがあります。さらに2026年12月1日からは、第2号被保険者について、iDeCo・企業型DC等の拠出限度額の見直しが予定されており、iDeCoの拠出限度額については企業年金との共通枠が月額6.2万円に引き上げられます。勤務先の企業年金制度などによって実際の拠出可能額は異なるため、勤務先の制度を確認する必要があります。
つまり、「節税したいから不動産を買う」前に、NISAやiDeCoなど、まず検討しやすい制度を確認するという順番が重要です。
不動産投資そのものを否定する必要はない
ここまで読んで、「不動産投資は全部ダメなの?」と思った方もいるかもしれません。そんなことはありません。不動産には、株式とは異なる収益源やレバレッジを利用できるという特徴があります。実際に、物件を慎重に選び、融資条件を工夫し、長期的な修繕計画や出口戦略まで考えて不動産投資を行っている人もいます。
ただし、それは「営業担当者に勧められた新築ワンルームを購入して、あとは管理会社にお任せ」という投資とは別物です。不動産投資をするのであれば、少なくとも以下は自分で理解したうえで判断したいところです。表面利回りと実質利回り、家賃下落・空室を含めたキャッシュフロー、ローンの金利と総返済額、ローン残高の推移、減価償却と税務上の不動産所得、売却時の譲渡所得・税金、売却時の仲介手数料等の諸費用、修繕積立金や大規模修繕の可能性——これらを把握したうえで判断することが最低限必要です。
「節税のために買う」は避ける
私は、勤務医が不動産投資を検討する際、「節税になるから」という理由を最初の購入理由にしないことを強くおすすめします。不動産投資そのものに経済合理性があるのであれば、その投資によって結果的に税負担が変わることはあります。しかし、「節税できるから赤字でもいい」という発想になると、投資判断が逆転してしまいます。「税金をいくら減らせるか」ではなく、「税引後に自分の資産がいくら増える可能性があるのか」を見るべきです。

よくある疑問Q&A
Q:不動産会社のセミナーで「成功事例」を見せてもらいました。本当に儲かっている人もいるんですか?
もちろん、不動産投資で利益を出している人は存在します。ただし、個別の成功事例が、その物件や投資手法全体の平均的な結果を示しているとは限りません。「この物件を購入した人は、10年後にどの程度の割合で利益が出ていますか?」「売却まで含めた税引後の収益率はどうですか?」と聞いてみると、単純な「家賃収入○万円」という成功談だけでは見えない部分が分かります。一人の成功者の話ではなく、自分が購入する物件の収支を数字で確認することが大切です。
Q:すでにワンルームマンションを購入してしまいました。どうすればいいですか?
まず、焦って売却するのではなく、現状を数字で整理しましょう。現在の物件の市場価格、ローン残高、毎月の家賃、管理費・修繕積立金、固定資産税、管理手数料、年間のキャッシュフロー、売却した場合の諸費用と税金——これらを整理したうえで、そのまま保有する・売却する・管理条件を見直す・ローン条件を確認する、などを比較します。特に売却を検討する場合、ローン残高と売却価格の差が問題になることがあります。不動産会社だけではなく、税理士や不動産投資に詳しい独立系FPなど、売却を促すことで利益を得る立場ではない専門家にも相談するとよいでしょう。
Q:「節税になります」と言われました。具体的にどれくらい節税できますか?
これは物件と本人の所得状況によって大きく異なります。税務上の不動産所得が50万円赤字になり、その全額が損益通算できるとしても、実際の税負担の軽減額は、その人の所得税・住民税の税率などによって変わります。そして最も重要なのが、「50万円の赤字を作るために、実際にはいくら現金が出ていったのか」です。減価償却費のように現金支出を伴わない経費もあるため、税務上の赤字と実際の持ち出し額は一致しません。
したがって、「年間節税額○万円」という数字だけではなく、①税務上の不動産所得、②実際の年間キャッシュフロー、③ローン元本の減少、④売却時の想定価格、⑤売却時の税金——までセットで確認しましょう。
Q:「先生のような高所得者こそ節税が必要」と言われました。
高所得者ほど税率が高くなるため、税制上利用できる制度を理解することは重要です。ただし、「高所得だから不動産を買うべき」という結論にはなりません。NISA、iDeCo、住宅ローン控除など、条件に合えば利用できる制度は複数あります。
2026年度の税制改正では、住宅ローン控除についても適用期限が延長され、2026年以降の入居について一定の拡充が行われています。また、開業医など個人事業主には小規模企業共済が選択肢になる場合がありますが、医療法人の役員は原則として加入資格がないなど、立場によって扱いが異なります。
つまり、「高所得者だから不動産」ではなく、「自分の所得・勤務形態・家族構成・資産状況に合った制度を順番に検討する」ことが重要です。
Q:勤務医なら学会費や書籍代も経費にできますか?
ここは誤解されやすいポイントです。勤務医の給与から、仕事に関連する支出を何でも「必要経費」として差し引けるわけではありません。給与所得者には「特定支出控除」という制度があり、一定の研修費、資格取得費、勤務必要経費などについて要件を満たせば控除できる場合があります。ただし、対象になるには一定の条件があり、勤務先による証明なども必要です。国税庁は学会参加の旅費・宿泊費についても、研究発表のための参加であれば「研修費」として当然に特定支出控除の対象になるわけではないとしています。
したがって、「勤務医なら学会費や書籍代を全部経費にできる」という説明には注意してください。
Q:中古のワンルームマンションなら新築よりいいですか?
中古物件では新築時の販売価格と中古市場価格の差という問題が小さくなる可能性があります。しかし、「中古なら安心」というわけでもありません。中古でも、家賃が低い・空室率が高い・管理費や修繕積立金が高い・大規模修繕の負担が大きい・立地に将来性がない・売却しにくい、といった問題があれば、投資として魅力的とは言えません。重要なのは「新築か中古か」ではなく、「購入価格に対して将来どれだけのキャッシュフローと資産価値が期待できるか」です。
まとめ
- 勤務医は高所得・安定した収入・融資を受けやすい属性などから、不動産営業のターゲットになりやすい
- 「家賃でローン返済できます」という説明だけでは不十分。管理費・修繕積立金・税金・空室・管理手数料まで含めて考える
- 新築物件は購入価格と中古市場での評価額に差が生じる可能性があるため、購入価格の妥当性を確認する
- 表面利回りだけでなく、実際のキャッシュフローを見る
- 不動産所得の赤字は一定の条件で給与所得などと損益通算できるが、土地取得の借入金利子など対象外となるものもある
- 税務上の赤字と実際のキャッシュフローは別物。減価償却など現金支出を伴わない経費があるため
- 減価償却は「永久に得をする節税」ではない。売却時の取得費にも影響するため、購入から売却までの税引後収支を見る
- サブリースの「家賃保証」も、家賃減額や契約解除などのリスクがある
- 不動産投資では出口戦略が重要。売却価格とローン残高の関係まで確認する
- 「節税になるから買う」のではなく、「投資として合理的だから買う」という順番で考える
- NISA・iDeCoなど、まずシンプルで透明性の高い制度を検討する
「先生、節税になりますよ」——この言葉を聞いたとき、ぜひ一度立ち止まってみてください。「それは、本当に税金が安くなる話なのか?」そして、もう一歩踏み込んで、「税金が安くなる代わりに、私は毎年いくらのお金を出しているのか?」と考えてみてください。さらに、「10年後、20年後に売却したら、最終的にいくら手元に残るのか?」まで計算して初めて、その投資が本当に合理的なのか判断できます。
資産形成で大切なのは、「節税額」や「家賃収入」など、一つの数字だけを見ることではありません。購入から売却までのトータルで、自分の資産が増えるのか減るのか。この視点を持つだけでも、不動産営業の説明をかなり冷静に聞けるようになります。
最後に(医師として)
医師として働いていると、「先生だからこそ知っていること」がたくさんあります。一方で、金融や不動産については、医師だからといって特別な知識があるわけではありません。むしろ、医学については専門家である医師でも、金融商品や不動産については営業担当者の説明をそのまま信じてしまうことがあります。これは決して不思議なことではありません。
医師が診療で「エビデンスを確認する」「リスクとメリットを比較する」「複数の選択肢を検討する」のと同じように、資産形成でも「その数字の根拠は何か?」と考えることが大切です。
もちろん、すべての不動産会社や不動産投資が悪いわけではありません。優良な物件を適正価格で購入し、長期的に収益を得ることができれば、不動産は有力な資産形成手段になり得ます。ただ、「医師だから融資できます」「節税できます」「家賃でローンを返せます」「管理は全部お任せください」という言葉だけで購入を決めるのはおすすめしません。
忙しい勤務医だからこそ、購入前に少しだけ時間を使って、「この投資で、自分のお金は最終的にどう動くのか?」を数字で確認してみてください。資産形成も診療と同じです。まず仕組みを理解し、メリットだけでなくリスクも確認し、そのうえで自分に必要なものを選ぶ。私はこの姿勢が、長期的な資産形成では最も重要だと考えています。
執筆:Dr.はると(呼吸器内科専門医・子育て中の父)
医師×資産形成×育児をテーマに発信中
参考資料:国税庁「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」、国税庁「損益通算」、国税庁「土地や建物を売ったとき」、国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」、国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」、厚生労働省「2025年の制度改正」、国税庁「給与所得者の特定支出控除」、財務省「令和8年度税制改正の大綱」
※本記事は2026年8月28日時点の法令・制度等をもとに、一般的な情報提供を目的として作成しています。不動産投資による税務上の効果や収益性は、物件、ローン条件、所得、所有期間、売却価格などによって大きく異なります。また、税制・社会保険制度等は今後変更される可能性があります。具体的な税務判断については税理士、不動産投資については不動産・金融の専門家等にご相談ください。

Dr.はると|呼吸器内科専門医・0歳児パパ
医師として働きながら、資産形成・育児の両立に取り組んでいます。
「医師目線のリアルな情報」を届けるべく、資産形成・育児・医療知識のテーマで発信中。
「難しい情報をわかりやすく」をモットーに、忙しい医師・子育て中の親御さんに役立つ記事を書いています。
