赤ちゃんが初めて熱を出したとき、親はほぼ例外なく不安になります。
「38度あるけど夜中に救急に行くべき?」「解熱剤って使っていいの?」「機嫌が悪いだけだけど大丈夫?」——これは正常な反応です。
不安になって当然です。赤ちゃんは自分の状態を言葉で伝えることができません。泣く・ぐずるという表現しか持っていない相手を前に、「今どのくらいしんどいのか」「このまま家で様子を見ていいのか」を判断しなければならない。親の立場になれば、その重さはよくわかります。
私自身、呼吸器内科医として日常的に発熱患者を診ていますが、我が子が38.5度の熱を出した夜は、正直かなり動揺しました。知識があっても、不安は消えません。むしろ「知っているからこそ、最悪のケースが頭をよぎる」という側面もあります。
この記事では、小児科医ではなく「0歳児を育てている医師パパ」目線で、判断の軸をシンプルに整理します。難しい医学知識ではなく、「これだけ覚えておけば迷わない」というポイントに絞りました。

まず結論:見るべきは「体温」より「状態」
👉 体温の高さだけで判断しない
「38度だから受診」「37度台だから様子見」——こうしたシンプルな判断は、実は危険です。体温はあくまでひとつの指標に過ぎません。本当に見るべきはこの3つです。
- 機嫌(ぐったりしていないか)
- 水分(飲めているか・おしっこ出ているか)
- 呼吸(苦しそうでないか)
この3点が保たれていれば、多くの場合は緊急性が低いです。
逆に言えば、体温が37.8度程度であっても、ぐったりして反応が鈍かったり、丸一日おしっこが出ていなかったり、呼吸が速くて苦しそうな様子があれば、それは受診が必要なサインです。数字に引っ張られすぎず、お子さんの「全体の様子」を観察することが何より大切です。
赤ちゃんの平熱は高い(ここでまず誤解が起きる)
赤ちゃんの平熱は36.5〜37.5度が一般的です。大人に比べてもともと高めで、個人差もかなりあります。
さらに、泣いた後・食後・夕方・厚着のときは体温が上がりやすいため、「37.5度=発熱」とは限りません。お風呂上がりや激しく泣いた直後に測って「熱がある!」と焦るケースも少なくありません。数字を見て判断する前に、「今、体温が上がりやすい状況にないか」を一度考えてみてください。
また、脇の下で測ると実際より0.3〜0.5度低く出ることも覚えておきましょう。耳式体温計は操作が簡単ですが、測り方によって数値がばらつきやすいため、いつも同じ方法・同じ場所で計測することが重要です。
👉 普段の体温を把握しておくことが最強の予防策です。
健康なときに何度か測っておき、「うちの子の平熱は37.0度前後」といった基準を持っておくと、いざというときに「いつもより高い」「これは明らかに発熱だ」という判断がしやすくなります。育児ノートやスマホのメモに記録しておくことをおすすめします。

【最重要】月齢別:受診の判断
ここが最も大切なポイントです。スクリーンショットして保存することをおすすめします。
同じ「38度の発熱」でも、生後1ヶ月の赤ちゃんと生後8ヶ月の赤ちゃんでは、医学的なリスクがまったく異なります。月齢によって免疫の成熟度が違い、感染症が重症化するリスクも変わってくるからです。
生後3ヶ月未満:38度以上で即受診(時間帯問わず)
この月齢は免疫が未熟で、敗血症・細菌性髄膜炎のリスクがあります。元気そうに見えても例外はありません。まず♯8000に相談し、必要に応じて速やかに受診してください。
「機嫌よく飲んでいるから大丈夫」という判断は、この月齢には当てはまりません。細菌感染は初期に症状が分かりにくいことがあり、見た目の元気さが安心材料にならないのが怖いところです。夜中であっても、休日であっても、この月齢の38度以上は受診を最優先にしてください。
生後3〜6ヶ月:38.5度以上 or 状態が悪い場合に受診
免疫がやや安定してくる時期ですが、まだ注意が必要です。後述する「危険サイン」が1つでもあれば迷わず受診してください。
この時期はウイルス感染による発熱が増えてきますが、細菌感染も十分ありえます。体温だけでなく、飲み具合・ぐったり感・呼吸の様子を合わせて観察することが重要です。
生後6ヶ月以降:基本は様子見OK(多くはウイルス感染)
39度以上が続く場合や、状態が悪い場合は受診を検討してください。
生後6ヶ月を過ぎると、母体からもらった免疫(移行抗体)が減り始め、自分自身の免疫が発達してくる時期でもあります。風邪などのウイルス感染で39度台の熱が出ることは珍しくなく、元気に遊んでいるならば慌てて受診する必要は必ずしもありません。ただし、後述する危険サインが出た場合はこの限りではありません。
体温より重要な「危険サイン」
以下のサインが1つでもあれば、体温に関わらず受診してください。
繰り返しになりますが、体温の数字はあくまで参考情報です。危険サインの有無こそが、受診判断の最重要基準です。「体温は38.2度だから様子見でいいか」ではなく、「下のリストに当てはまるものはないか」を先に確認するクセをつけてください。
🚑 すぐ受診(救急)
- ぐったりしている・反応が鈍い
- 呼吸が苦しそう(陥没呼吸・鼻翼呼吸)
- チアノーゼ(唇・爪が紫色)
- けいれんが起きている
- 首が硬い・強い光を嫌がる
- 発疹が急速に広がっている
陥没呼吸とは、息を吸うたびに胸の真ん中(胸骨の下)や肋骨の間がへこむ呼吸のことです。鼻翼呼吸は鼻の穴がふくらんで小鼻が大きく動く状態です。どちらも肺に十分な空気が入らず、呼吸が苦しい状態のサインです。見慣れない症状ですが、一度でも見たことがある親御さんはすぐ分かる特徴的な所見です。
🏥 早めに受診(当日〜翌日)
- 発熱が3日以上続いている
- 水分が取れない・尿が出ない
- 強い不機嫌(あやしても改善しない)
- 耳を触る・頭を振る(中耳炎の疑い)
「強い不機嫌」という表現は少し曖昧に聞こえるかもしれません。目安として、授乳してあやしても泣き止まない・30分以上ずっと泣き続けているといった状態が続く場合は受診を検討してください。また、尿が半日以上出ていない場合は脱水が進んでいる可能性があるため、早めの受診が必要です。

迷ったら「♯8000」は最適解
「受診すべきか迷う」——育児中に何度でも起きます。そんなときに使えるのが小児救急電話相談(♯8000)です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 電話番号 | ♯8000(全国共通) |
| 対応者 | 小児科医・看護師 |
| 費用 | 無料 |
| 相談内容 | 受診の要否・対処法・応急処置など |
👉 これを使えるかどうかで、育児ストレスはかなり変わります。遠慮なく使ってください。
「こんなことで電話していいのか」と遠慮する必要はありません。このサービスはまさにそのために存在しています。深夜に体温計を見て不安になっているとき、「電話して専門家に聞ける」という選択肢を知っているだけで、親の心の余裕はまったく違います。判断に迷ったときの「最初の一手」として、ぜひ活用してください。
なお、都道府県によって受付時間が異なります。夜間・休日は対応時間が限られていることもありますので、あらかじめお住まいの地域の受付時間を確認しておくと安心です。

参考:厚生労働省|子ども医療電話相談事業(♯8000)について
自宅でできる対応
① 水分が最優先
母乳・ミルクをいつも通り与えてください。嫌がる場合は少量をこまめに。おしっこが出ているかどうかが脱水を確認する目安になります。
熱が出ると代謝が上がり、体から水分が失われやすくなります。「いつも通り飲んでいるか」「おむつが濡れているか」を定期的に確認してください。離乳食が始まっている月齢であれば、食欲がなくても水分だけは摂れるよう工夫しましょう。経口補水液(OS-1など)は乳児に使う場合、量に注意が必要です。心配な場合はかかりつけ医に相談を。
② 薄着にする
熱があるときに厚着や掛けすぎは禁物です。室温に合わせた薄着にして、汗をかいたらこまめに着替えさせましょう。
赤ちゃんは体温調節機能が未熟なため、服や布団で熱がこもりやすいです。「寒そうだから」と重ね着させることで、本来は37度台だったはずの体温が38度台に見えることもあります。まず薄着にして環境を整えてから再度測るというステップが有効です。
③ 解熱剤の考え方
解熱剤の目的は「熱を下げること」ではなく、「子どもを楽にすること」です。ぐったりしているとき・39度以上でつらそうなときに使用を検討してください。生後3ヶ月未満には原則使用せず、必ず医師の指示のもとで使ってください。
よく「解熱剤を使うと治りが遅れる」と心配される方がいますが、現在の医学的なエビデンスではその根拠はありません。熱そのものは免疫反応の一部ですが、高熱で苦しんで眠れない・水分が取れないという状態の方が体への負担は大きいです。「使わない方がいい」ではなく「必要なときに正しく使う」という感覚でいてください。
④ 熱性けいれんが起きたら
多くは5分以内で自然に止まり、後遺症もほとんどありません。起きた場合は横向きに寝かせ・口に何も入れず・時間を計ることを心がけてください。5分以上続く場合や繰り返す場合は救急車を呼んでください。
熱性けいれんは、発熱に伴って起こる一時的なけいれんで、乳幼児の約5〜8%に経験があるとされています。親が目撃すると非常に怖い体験ですが、大半は数分以内に自然に止まります。けいれん中に「舌を噛まないように」と口に指や割り箸を入れる行為は危険ですので、絶対にやめてください。落ち着いて時間を計測し、けいれんの様子をスマホで録画できると、後で医師に伝えるうえで非常に役立ちます。
よくある誤解
❌ 高熱=重症?
→ 違います。39度台でも元気な子はいます。逆に、37.8度でもぐったりしている場合は要注意です。体温はあくまで参考値のひとつ。全身の状態を合わせて評価することが大切です。
❌ 解熱剤は治りを遅らせる?
→ そのようなエビデンスはありません。つらそうなときは適切に使って問題ありません。「薬を使わず頑張らせる方が体力がつく」というのも根拠のある話ではありません。子どもが楽に過ごせることを優先してください。
❌ 病院で感染するから行かない方がいい?
→ 必要な受診を避ける方がリスクは大きいです。受診の要否は体温と全身状態を総合して判断してください。「院内感染が怖い」という気持ちは理解できますが、それを理由に受診が遅れて重症化するリスクの方が医学的には高いです。迷ったら♯8000に相談してから判断するのが現実的です。
医師パパの実体験:夜中の38度、「教科書」と「現実」の間で
その夜は、静かでした。
いつも通り寝かしつけをして、ふと触れたおでこが、少し熱い。体温計を当てると——38.0度。
息子は生後2ヶ月でした。
その瞬間、頭に浮かんだのは教科書的な一文でした。
「生後3ヶ月未満の38度以上は速やかに受診」
でも目の前の息子は、すやすや眠っていて、起きればミルクも飲むし、機嫌も悪くない。「本当に”発熱”なのか?」「それとも、ただ熱がこもっているだけか?」——医師としての知識と、親としての不安が、頭の中でせめぎ合いました。
すぐに救急に向かうこともできた。でもその前に、ひとつだけ冷静にやろうと思いました。
👉 ♯8000に電話する
状況を説明すると、落ち着いた声でこう言われました。
「機嫌がよくて飲めているなら、まず環境を見直してみてください」
部屋を見渡すと、思い当たる節がありました。タオルケット、やや厚着。それらを外して、薄着にしてみる。
——30分後。体温は、36度台に戻っていました。熱がこもっていただけでした。
あのとき学んだのはシンプルです。
- 「38度」という数字だけで動かないこと
- 迷ったら、まず相談すること
知識があっても、我が子のこととなると冷静ではいられません。それは当然のことです。だからこそ、「迷ったときにどこに電話するか」を事前に知っておくことが、深夜の落ち着きにつながります。

まとめ
| 月齢 | 受診の目安 |
|---|---|
| 生後3ヶ月未満 | 38度以上で速やかに受診(夜間・休日も)、まず♯8000 |
| 生後3〜6ヶ月 | 38.5度以上、または状態が悪い場合 |
| 生後6ヶ月以降 | 39度以上が続く、または危険サインあり |
✔ 月齢で判断する
✔ 体温より「状態」を見る
✔ 迷ったら♯8000
医師でも迷います。むしろ、親だからこそ迷います。だからこそ大事なのは——一人で判断しないこと。♯8000でも、救急でもいい。相談すること自体が正しい行動です。
「受診するかどうか迷った」「♯8000に電話した」、それは過保護でも心配しすぎでもありません。子どもの安全を守ろうとした、正しい親の行動です。自信を持ってください。
執筆:Dr.はると(呼吸器内科医・29歳・0歳児パパ)
医師×資産形成×育児をテーマに発信中
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。お子さんの状態に不安がある場合は、必ずかかりつけ医または救急外来にご相談ください。
