「とりあえず安心だから」で保険に入っていませんか?
「営業に勧められるまま契約した」
「必要かどうか分からないけど、なんとなく継続している」
勤務医は収入がある分、“カモにされやすい職業”でもあります。保険の営業担当者にとって、医師は「高収入で忙しく、保険の細かい内容を確認する時間も意欲もない」という条件が揃っています。研修医のころから「先生、少しお時間よろしいですか」と声をかけられた経験がある方は多いのではないでしょうか。
私自身も、資産形成を本格的に学ぶ前は複数の保険に加入していました。毎月の保険料の総額を計算したとき、正直驚きました。
しかし整理してみると、
👉 勤務医に必要な保険は、かなりシンプルです。
この記事では、家族のいる勤務医を前提に
- 本当に必要な保険
- 見直すべき保険
- 判断のフレームワーク
を、医師×資産形成の視点で解説します。
なお、保険の最適解は個人の収入・家族構成・資産状況によって異なります。この記事はあくまで考え方の整理を目的としており、具体的な契約変更はファイナンシャルプランナーや専門家へのご相談をおすすめします。

前提:勤務医は「すでに保険に入っている」
まず最も重要なポイントです。
👉 勤務医は公的保障という”最強の保険”に加入済みです。
この事実を知らずに民間保険を選ぶと、すでに公的制度でカバーされているリスクに対して、二重にお金を払うことになります。まず公的保障の全体像を把握することが、保険を合理的に選ぶための第一歩です。
① 傷病手当金(健康保険)
- 支給期間:最長1年6ヶ月
- 支給額:標準報酬日額の約2/3
👉 長期の就業不能リスクの”コア部分”はすでにカバー済み。
病気やケガで働けなくなった場合、給与の約2/3が最長1年半にわたり支給されます。民間の「就業不能保険」が担っている役割の多くを、すでにこの制度が果たしています。なお、標準報酬月額が高い勤務医の場合、支給額の絶対値も大きくなります。
② 障害年金(厚生年金)
- 障害等級に応じて支給
- 現役世帯でも受給対象
👉 一生続くリスクに対するベース保障。
重篤な障害が残った場合、障害の程度に応じて障害基礎年金+障害厚生年金が終身で支給されます。「病気で障害が残ったら収入がゼロになる」という最悪のシナリオは、この制度である程度緩和されています。傷病手当金の1年6ヶ月を超えた後の長期的な保障として機能します。
③ 遺族厚生年金
- 配偶者・子に支給
- 子あり世帯では比較的手厚い
👉 完全ではないが「最低限の生活」は担保。
万が一死亡した場合、遺された家族に遺族基礎年金+遺族厚生年金が支給されます。子どもがいる世帯は支給額が上乗せされるため、特に子育て期間中は一定の保障があります。ただし医師の収入水準で考えると、これだけで家族の生活レベルを維持するには不十分なケースがほとんどです。ここを民間保険で補うのが合理的です。
④ 高額療養費制度(健康保険)
- 医療費の自己負担に上限あり
- 年収帯により上限が決定
👉 医療破産はほぼ起きない構造。
どれだけ高額な治療を受けても、ひと月の自己負担額には上限が設定されています。年収が高い勤務医でも、上限は月に数万〜十数万円程度に抑えられます。がんや重篤な疾患で長期入院になっても「医療費で家計が破綻する」事態はほぼ起きない仕組みになっています。
結論:保険の基本戦略
👉 「足りない部分だけを最小コストで補う」
これだけです。公的保障で補えないリスクを特定し、そこにだけお金をかける。この原則さえ持っていれば、保険選びで大きく失敗することはありません。

勤務医に必要な保険【5つ】
① 収入保障保険(最重要)
死亡または高度障害状態になった場合に、毎月一定額が残された家族に給付される定期型の保険です。
なぜ必要か?
- 子育て世帯は「支出が長期間続く」(住居費・教育費・生活費)
- 遺族年金だけでは医師の収入水準には遠く及ばない
選ぶ際のポイント
- 掛け捨て(定期型)でOK:貯蓄機能は不要。保障だけを安く確保する
- 期間は「子の独立まで」:子どもが自立すれば保障の必要性は大幅に下がる
- 必要保障額は「生活費 − 遺族年金 − 保有資産」で計算:資産が増えるにつれて必要保障額は減らせる
👉 生命保険はこれ1本で十分なケースが多い。
「収入保障保険」という名称に聞き慣れない方もいるかもしれませんが、保険料が割安で、毎月給付されるため家族の生活費補填に向いています。一時金で受け取る「定期死亡保険」と比較しても、コストパフォーマンスが高い選択肢です。

② 火災保険(実質必須)
- 持ち家:建物+家財を補償。住宅ローン契約時は加入必須
- 賃貸:家財+借家人賠償責任。賃貸契約時にほぼ求められる
👉 見落としがちだが「発生頻度×損失額」が大きい。
火災・水害・風災・盗難など、日常生活で突発的に発生するリスクをカバーします。特に近年は自然災害の激甚化が続いており、補償内容の確認が重要です。保険料は条件によって大きく異なるため、複数の保険会社で比較することをおすすめします。

③ 自動車保険・任意保険
- 対人・対物:無制限が基本
👉 医師は賠償請求されると資産を守る必要がある。
交通事故で相手方に重篤な障害が残った場合、賠償額が億単位になるケースがあります。医師のように資産を持っている立場では、無保険・補償が不十分な状態で車を運転することは大きなリスクです。対人・対物賠償は無制限で設定しておくのが基本です。

④ 自賠責保険(義務)
- 法律により加入が義務付けられている
- 対人賠償のみ・上限あり
👉 単独では不十分 → 任意保険とセット前提。
自賠責保険だけでは補償範囲が限定的です。必ず③の任意自動車保険と組み合わせることで、初めて十分な備えになります。未加入での走行は違反になるため、車検・保険の期限管理は徹底しましょう。

⑤ 医師賠償責任保険(医賠責保険)
- 医療行為に起因する損害賠償請求に対応
注意点
- 病院が団体加入している範囲を必ず確認する
- 補償額が不十分なケースでは個人加入が必要
👉 勤務先任せにしないことが重要。
医療訴訟は年々増加しており、訴訟費用・和解金・賠償金のいずれも高額になりうる時代です。勤務先の病院が団体加入しているケースが多いですが、補償上限や対象範囲を確認したうえで、必要であれば個人でも加入を検討してください。

【見直し候補】入りすぎが多い保険
ここからは、勤務医が入りがちだが費用対効果の観点で見直しを検討してよい保険を解説します。
① 学資保険
問題点
- 返戻率:実質年利0〜1%程度(インフレを考慮するとほぼゼロ)
- インフレに弱い:将来の教育費が上昇しても、受取額は固定
- 流動性が低い:途中解約すると元本割れするケースが多い
👉 NISAの積立投資の方が合理的なケースが多い。
「子どもの教育費を確保したい」という目的は正当です。しかし、その手段として学資保険を選ぶ必要はありません。同じ金額を毎月インデックスファンドに積み立てた場合の期待リターンは、学資保険を大きく上回る可能性があります。ジュニアNISAは2024年に廃止されましたが、通常のNISA(成長投資枠・つみたて投資枠)で教育資金を積み立てることは十分に可能です。
② 積立型・変額保険
問題点
- 手数料が見えにくく高い:保険会社の運営コスト・販売手数料が内包されており、実際の運用効率は低い
- 自由度が低い:投資先の変更・解約・一部引き出しに制約がある
👉 投資はNISA、保障は掛け捨てで分離するのが基本。
「保障と貯蓄が一緒になっていて便利」というのは営業トークです。保険と投資を一つの商品にまとめると、双方の効率が落ちます。掛け捨て保険で保障を安く確保し、余剰資金はNISA・iDeCoで運用する——このシンプルな分離が、長期的な資産形成には合理的です。
③ 養老保険
- かつては節税メリットあり(法人加入) → 税制改正により現在はほぼ消失
👉 “保険で貯める”時代ではない。
一定期間後に満期保険金が受け取れる養老保険は、かつて法人での節税スキームとして活用されていました。しかし2019年以降の税制改正により、その旨みは大幅に縮小されています。個人加入においても、返戻率の低さ・長期拘束・インフレへの弱さという課題は変わりません。
④ 医療保険・がん保険
冷静に考えると
- 高額療養費制度があり、医療費の自己負担には上限がある
- 十分な貯蓄があれば入院費用は自己負担でカバー可能
👉 必須ではない。
ただし例外もあります。
- 貯蓄がまだ少ない時期(研修医〜勤務医初期)
- 将来の自営業・開業を見据えて公的保障が減ることを考慮したい場合
- 先進医療(保険適用外の治療)への備えとして
👉 「安心を買うか」の問題でもあります。
医療保険・がん保険への加入を否定するわけではありません。ただし「入らないと不安だから」という感情ではなく、「高額療養費制度でどこまでカバーされるか」「自分の貯蓄でどこまで耐えられるか」を確認したうえで判断してほしいのです。

医師がやりがちなミス3選
① 保険に入りすぎる
👉 「全部カバーしよう」という思考が落とし穴。
リスクをすべて保険で排除しようとすると、保険料だけで毎月数万〜十数万円になりかねません。保険は「低確率だが起きたときの損失が壊滅的なリスク」に絞って使うものです。確率が高い小リスクは貯蓄で対応するのが原則です。
② 貯蓄性商品を選ぶ
👉 営業トークに乗りやすい。
「払った保険料が戻ってくる」「運用しながら保障も」という言葉は魅力的に聞こえます。しかし金融リテラシーの観点から見ると、保険会社のコストが内包されている時点で、純粋な投資商品よりも効率は劣ります。「掛け捨ては損」という感覚は、保険業界にとって都合の良い誤解です。

③ 公的保障を知らない
👉 これが一番危険。
傷病手当金・障害年金・遺族厚生年金・高額療養費制度——これらを知らないまま保険を選ぶと、すでにカバーされているリスクにお金をかけることになります。保険を見直す前に、まず自分が受けられる公的保障を調べることが第一歩です。
判断フレームワーク(重要)
保険を選ぶとき、以下の3つの問いで整理すると判断しやすくなります。
- 公的保障でどこまでカバーされるか(傷病手当金・遺族年金・高額療養費など)
- 自分の資産でどこまで耐えられるか(緊急予備資金・金融資産の状況)
- 誰が困るのか(配偶者・子ども・親など、自分に経済的に依存している人の有無)
👉 この3つで9割は判断できます。
たとえば独身で資産が十分にある場合、①②③の答えはすべて「リスク小」になり、生命保険の必要性はほぼなくなります。逆に、子どもが小さく資産がまだ少ない時期は、収入保障保険の必要性が高まります。保険は「今の自分の状況」に合わせて定期的に見直すものです。
まとめ
必要な保険
- ✔ 収入保障保険(家族あり・定期型・掛け捨て)
- ✔ 火災保険(持ち家・賃貸どちらも)
- ✔ 自動車保険+自賠責保険(対人・対物は無制限)
- ✔ 医師賠償責任保険(勤務先の補償内容を確認のうえ)
見直し候補
- △ 学資保険(NISAでの積立投資を比較検討)
- △ 積立型・変額保険(保障と投資の分離を検討)
- △ 養老保険(コスト・拘束期間を再確認)
- △ 医療・がん保険(貯蓄状況と公的保障で判断)
👉 保険は「安心のため」ではなく「破綻を防ぐため」のものです。
ここを履き違えなければ、過剰な保険には入りません。毎月の保険料の総額を一度計算してみてください。そのお金をNISAに回したら、10年後・20年後にどうなるか——そのシミュレーションが、保険見直しの最強の動機になります。

最後に(医師として)
日々診療していると、「経済的不安」が健康に与える影響は無視できません。お金の心配が慢性的なストレスになり、睡眠や食事、家族関係にまで影響するケースを見てきました。
だからこそ、
👉 合理的に備えて、余計な不安は減らす。
これが本質だと思っています。保険を整理することは、「切り捨て」ではなく「本当に必要なものに絞る」ことです。その結果として浮いた保険料を資産形成に回せれば、将来の選択肢は確実に広がります。
執筆:Dr.はると(呼吸器内科専門医・0歳児の父)
医師×資産形成×育児をテーマに発信中
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品・保険商品の勧誘を目的としたものではありません。具体的な保険の見直しはファイナンシャルプランナーや専門家にご相談ください。

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