勤務医の税負担はなぜ重いのか|課税所得の計算・累進課税の構造・合法的な節税手段を医師が解説
「年収はそれなりにあるのに、なぜかお金が残らない」
「源泉徴収票を見るたびに、こんなに引かれているのかと驚く」
「税金のことをもう少しちゃんと理解しておきたいが、何から学べばいいか分からない」
勤務医として働いていると、多くの人が一度は感じる違和感です。これは単なる感覚ではなく、税制と社会保険の構造による必然です。給与所得控除の頭打ち・累進課税・社会保険料の負担という3つが重なることで、年収が上がるほど「手取りの増え方が鈍くなる」という現象が起きます。
この記事では、勤務医の税負担を「計算の流れ」「制度の構造」「実際のインパクト」の3つの視点から整理します。税金の仕組みを理解することは、節税の土台であり、資産形成の第一歩でもあります。

勤務医の手取りが増えにくい最大の理由は「給与所得控除の頭打ち(年収850万円超で195万円固定)」と「累進課税による税率上昇」の組み合わせです。経費が使えない勤務医が税負担を下げられる手段は「控除」のみ。iDeCo・ふるさと納税・医療費控除・住宅ローン控除を適切に使うことが、現実的な節税の全てです。
※本記事は2026年8月時点の情報をもとにしています。税務に関する個別の判断は、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
目次
- 税金は「収入」ではなく「課税所得」にかかる
- 課税所得の計算の全体像
- ① 給与所得控除——勤務医が不利になるポイント
- ② 各種控除——ここが「コントロールできる領域」
- 所得税の仕組み:累進課税を正しく理解する
- 住民税:地味に効いてくる固定10%
- 【具体例】年収1,200万円のリアル
- なぜ「手取りが増えない」と感じるのか
- 合法的に税負担を下げる方法
- まとめ
税金は「収入」ではなく「課税所得」にかかる
まず最初に、最も重要な前提を押さえておきます。勤務医の給与から差し引かれるものは主に社会保険料(健康保険・厚生年金など)、所得税(国税)、住民税(地方税)の3つです。そしてここで大事なのは、税金は「額面年収」にはかからないという点です。税金が課せられるのは、各種控除を差し引いた後の「課税所得」に対してです。
「年収1,200万円なら33%くらい税金がかかる」というイメージを持つ方は多いですが、これは半分正しく半分間違いです。実際には、控除を引いた後の金額に対して、段階的に税率がかかる累進課税の仕組みになっています。この前提を理解するだけで、税金への見方がかなり変わります。
課税所得の計算の全体像
税金の計算は「削れるだけ削って、残った部分に税金をかける」という構造です。控除が多い人ほど税金は軽くなり、控除が少ない人ほど税金は重くなる——非常にシンプルなロジックです。ここを理解すれば、税金の構造の8割は把握できたと言っても過言ではありません。

① 給与所得控除——勤務医が不利になるポイント
給与所得控除は、「サラリーマンの経費」として概算で認められる控除です。年収が高いほど控除額も増えていきますが、年収850万円を超えると195万円で頭打ちになります。つまり年収900万円の医師も、年収1,500万円の医師も、控除は同じ195万円しか引けません。
これが何を意味するかというと、「それ以上は経費なしで稼いでいる扱い」になるということです。年収が上がるにつれて給与所得控除の恩恵が相対的に薄れていき、課税所得の割合が大きくなる——これが、勤務医の税負担が急に重く感じる主な理由のひとつです。

② 各種控除——ここが「コントロールできる領域」
給与所得からさらに差し引けるのが各種控除です。主なものとして、社会保険料控除(最も金額が大きい)、基礎控除(所得税48万円・住民税43万円)、配偶者控除・扶養控除、生命保険料控除、iDeCo(掛金全額控除)、医療費控除、寄附金控除(ふるさと納税)があります。
勤務医にとって特に重要な視点は、「控除こそが唯一の節税レバー」という点です。個人事業主は経費を増やすことで利益(課税所得)を調整できますが、勤務医にはその手段がほぼありません。業務に使った書籍代や学会交通費も、原則として経費として計上できません。だからこそ、控除の使い方が資産形成における最重要の問いになります。

所得税の仕組み:累進課税を正しく理解する
所得税は累進課税、つまり所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。ただしここで非常に重要なのは、「全額に高い税率がかかるわけではない」という点です。
たとえば課税所得900万円の場合、195万円までは5%、それを超えた部分に10%・20%・23%と段階的に積み上がっていきます。「課税所得900万円だから33%」ではなく、部分ごとに税率が異なります。この「段階的に積み上がる」という構造を正確に理解しておくことが、節税を考えるうえでの土台になります。
なお、所得税には2037年まで復興特別所得税(2.1%)が上乗せされています。
住民税:地味に効いてくる固定10%
住民税はシンプルで、所得割が10%、均等割が約6,000円前後(自治体によって異なります)です。税率は一律なので累進ではありませんが、ここで重要な特徴があります。住民税は前年の所得に対して翌年に課税されるという時間差構造です。
これが「医師あるある」の根本原因です。転職後に前職の収入に対する住民税が翌年一気にのしかかる、育休中に前年の高収入ベースの住民税が請求されて手取りが一気に減るといった現象は、すべてこの時間差課税によるものです。収入が変動するタイミングにはあらかじめ備えておくことが重要です。
【具体例】年収1,200万円のリアル
ざっくりとした試算ですが、年収1,200万円の場合、課税所得は各種控除を差し引いて約800万円前後になります。これに対する所得税は約120万円、住民税は約80万円で、合計約200万円が税負担です。さらに社会保険料(健康保険・厚生年金)が約160万円かかります。
所得税:約120万円 + 住民税:約80万円 = 税負担:約200万円
社会保険料:約160万円
合計:約360万円(年収の約30%)
「年収1,200万円」でも、手取りは約840万円(月70万円程度)になる計算です。「思ったより少ない」という感覚は、この構造から来ています。
なぜ「手取りが増えない」と感じるのか
勤務医が「手取りの増え方が鈍い」と感じる理由は4つあります。
まず給与所得控除が年収850万円で頭打ちになること。次に累進課税により、稼ぎが増えるほど税率が上がること。そして住民税の翌年課税という時間差により、昇給した翌年に重くのしかかること。最後に、最も本質的な理由として経費が使えないことです。
個人事業主であれば、家賃・車・書籍・交際費などを経費計上して課税所得を圧縮できます。クリニックを経営する開業医は、医療機器・人件費・家賃など大きな費用を経費にできるため、税制上は勤務医より圧倒的に有利な立場にあります。勤務医にはこれがほぼできません。
ただし、開業にはリスクと準備が伴います。今すぐ開業できない勤務医でも使える節税手段は確実に存在します。

合法的に税負担を下げる方法
現実的に有効なものだけを厳選して紹介します。
ふるさと納税は実質2,000円の自己負担で返礼品が受け取れる制度で、住民税と所得税が軽減されます。高所得の医師ほど寄附上限額が大きく、メリットも大きくなります。iDeCoは掛金が全額所得控除になるため、税率が高い医師ほど節税効果が大きい制度です。掛金の上限は勤務先の企業年金の加入状況によって異なります。
医療費控除は家族全員の医療費を合算して申請できます。出産費用・歯科治療費など高額になりやすい費用が活用機会になります。住宅ローン控除は所得控除ではなく税額控除であるため、効果が特に強力です。2022年以降に取得した住宅の控除率は0.7%(2021年以前の1%から変更)ですが、それでも長期にわたって大きな節税効果をもたらします。

たとえばiDeCoの掛金を月2万円積み立て、税率が33%(所得税+住民税)の場合、年間の節税効果は約8万円です。この「確実に戻ってくる8万円」は、投資リターンと同等の価値があります。節税を後回しにしていると、毎年その機会を損失しています。「まず構造を理解し、使える控除を確実に使う」ことが、資産形成において最も再現性の高いアプローチです。
まとめ
勤務医の税負担が重い理由は、給与所得控除の頭打ち・累進課税・経費が使えないという3つの構造的な問題の組み合わせです。税率そのものは変えられませんが、控除の使い方は選べます。iDeCo・ふるさと納税・医療費控除・住宅ローン控除——これらを適切に組み合わせるだけで、年間数十万円単位の差が出ることがあります。
税金の問題は「努力では解決できない領域」ですが、「理解すれば最適化できる領域」でもあります。まずは仕組みを正確に理解することが、資産形成の出発点になります。
執筆:Dr.はると|呼吸器内科専門医・0歳児の父
医師×資産形成×育児をテーマに発信しています
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。税務に関する個別の判断は、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

Dr.はると|呼吸器内科専門医・0歳児パパ
医師として働きながら、資産形成・育児の両立に取り組んでいます。
「医師目線のリアルな情報」を届けるべく、資産形成・育児・医療知識のテーマで発信中。
「難しい情報をわかりやすく」をモットーに、忙しい医師・子育て中の親御さんに役立つ記事を書いています。
